days of thousand leaves

文学研究者のひとりごと

『戯作者の命脈 坂口安吾の文学精神』「あとがき」より

坂口安吾が一九四一年に記した「ラムネ氏のこと」(『都新聞』1941年11月20~22日)というエッセイがある。新聞の片隅に三日間にわたってひっそりと掲載された、ごく短い文章であるが、一九七〇年代後年以降、高校国語の教材として教科書に採録され続けてき…

制度としての「読書」をめぐって―共同研究の構想/夢想

学校、軍隊、企業など、ある集団に属する人間にある種の教養や認識、思考の枠組みといったものを「教育」として施そうとするとき、教育者は被教育者に対して、しばしば「読書」という行為を求める。そこでは読むべき書物がリスト化され、それらを読み進める…

坂口安吾「日本文化私観」の注釈的読解について

ちょっと必要があって坂口安吾「日本文化私観」の本文を眺めていたのだけれど、この文章、改めて読むと本当にハイコンテクストで、これに真面目に注釈をつけようとしたらかなり大変なことになる。かつて高校国語「現代文」の教科書に入っていたりしたけれど…

恩師の訃報

www.nikkei.com 恩師である十川信介先生が亡くなった。10日ほど前に亡くなっていたのだという知らせを受け取ってから数日が経ったが、いまだ実感がわかない。 そもそも、不肖の弟子たる自分は、こちらからまめに連絡をとっていたわけでもないし、そのような…

父の遺品をかたづけながら

時間を見つけては実家に足を運び、少しずつ父の遺品の整理をしている。その作業の中で出てきた、祖父関係の遺品。祖父が亡くなった後に父がその遺品を整理したときに手元に残したものなのだが、それがさらに孫である私のところに届くというのは、少し不思議…

いわゆる学会の「印象記」というものについて

学会の刊行物に掲載される、研究報告に関する印象記のあり方についての日比さんの問題提起。 学会向け批評記事のウェブ先行公開は、愚挙なのか - 日比嘉高研究室 依頼を受けて書いた文章を(バージョン違いとはいえ)依頼元より先に公開しちゃまずかろう、と…

最近の仕事(2017年2月、3月)

方法論としての「文学のふるさと」―坂口安吾における「芥川龍之介」―(「近代文学合同研究会論集」第13号、2017・2)坂口安吾「文学のふるさと」(1941)における「芥川龍之介」の語られ方に改めて注目し、文学表現上の方法論としてこのエッセイを読み直す試…

研究会のご案内(2016年12月27日開催)

※今年度からスタートしたばかりの共同研究ですが、今回はゲストをお招きしての意見交換会ということで、メンバー外の方のご参加も歓迎いたします。 - 科研費共同研究「占領期ローカルメディアに関する資料調査および総合的考察」第2回研究会 日時:2016年12…

最近の仕事(2016年10月)

数年越しで関わってきた雑誌「月刊にひがた」(1946〜1949年に新潟日報社が刊行していた月刊総合誌)の復刻がようやく完結しました。最終配本の今回は、別冊として「解題、総目次、執筆者索引」も付きます。 「解題」では、新潟で刊行されていた地方雑誌に、…

最近の仕事(2016年3月)

「動物・ことば・時間――〈動物と人間の文学誌〉のための覚え書き」 (「千葉大学人文社会科学研究」32、2016・3) イエルク・シュタイナー(文)イエルク・ミュラー(絵)の絵本『ぼくは くまのままで いたかったのに……』(大島かおり訳)、宮沢賢治「なめと…

最近の仕事(2016年2月)

「新潟日報」に『月刊にひがた』から見る敗戦直後の地方雑誌についての短文を寄稿しました。 (「新潟日報」2016年2月13日 朝刊28面) 復刻版の最終配本時に付けることになる解題のパイロット版といった感じの内容です。

『月刊にひがた』復刻版

三人社から復刻版の刊行が始まり、「新潟日報」紙面でもご紹介いただきました。

近代文学合同研究会 第15回シンポジウムのご案内

近代文学合同研究会第15回シンポジウム 『昭和十年代の「芥川龍之介」―「文学のふるさと」を視座にして―』 〔日 時〕2015年12月12日(土)午後2時より 〔会 場〕慶応義塾大学三田キャンパス 南校舎5階452教室 〔パネラー〕 大原祐治:「芥川龍之介」の使い方…

太刀とペン

日本文学協会の大会(文学研究の部)に参加してきた。テーマは「定番教材を問い直す―芥川龍之介『羅生門』。 特に思い入れのある小説でもないし、高校で教えていた頃にも授業で扱ったことはないのだが、討議の内容には、いくつかの点で刺激を受けた。パネラ…

8月30日に

家族で外出していた日曜日。 16時を少し過ぎた頃に、桜田門駅から国会前に向かってみた。この夏、これまでにも何度か足を運んでいたが、今回は初の家族連れ。昼間には用事があったということもあるけれど、安全確保の問題も考え、ピークが過ぎているであろう…

文章表現と規範

本務校で例年開講している「普遍教育」(いわゆる一般教養)の授業で、今年は「国語」教科書の中の文学作品を再読してみよう(ただし、文学研究の視点から)、というような講義をしてみた。 扱った作品は『舞姫』『こころ』から始めて、『走れメロス』『夏の…

シンポジウム(2015.07.23 @千葉大学)の後に

今日のシンポジウムには、学部生、大学院生、卒業生、現職教員、教員OB、さらには様々な立場の市民まで、多くの方々が参加していたようです(大幅に時間を延長してもなお、手が上がり続ける状況でした)。 私自身は、もともと大した話を用意していったわけで…

緊急シンポジウムのお知らせ

千葉大学内で「安全保障関連法案」について考える緊急シンポジウムを開催することになりました。 日時:7月23日(木)17時45分〜19時 会場:総合校舎C-12 趣旨説明、何名かの研究者からの発言の後、ご来場の皆さんでのフリートークということになるようです。…

文学研究とドーナツの穴

大学の文学部は「文学」を学ぶ(だけの)場ではない。文学部とは「文」(=人文学)について学ぶ、すなわち「言葉」で語られ/記された知について学ぶ場である。 その意味で、わかりやすく単純化して言ってしまえば、文学部とは「リテラシー」を鍛える場であ…

「必要なの?」という声にどう応えるか

http://www.asahi.com/articles/ASH685CJLH68UTIL01W.html http://www.asahi.com/articles/ASH653VNRH65UPQJ001.html こうした国立大学の人文社会系、教員養成系への改廃要請の話、これからどうすべきなのか、というのはかなりの難問だろうと思っている。 学…

最近の仕事(2015年3月分)

「地図と痕跡―大岡昇平『武蔵野夫人』論」 (千葉大学「人文研究」44、2015・3) 創元文庫版以後、今日における流布本文である新潮文庫版まで、『武蔵野夫人』の巻頭にはかならず「『武蔵野夫人』小説地図」と題した図版が掲載されており、この小説の読解は…

沈黙の言葉

ちょっと捜しものがあって、HDDの中のファイルをいろいろと開いていたら、だいぶ前に書いた文章が出てきた。 これは、前の職場(学習院高等科)で文芸部の学生に、文化祭に合わせて発行する会誌に何か寄稿してほしいと求められて、大急ぎで書いたものだった…

教科書をめぐる雑感

「この教科書は、これからの日本を担う皆さんへの期待をこめ、税金によって無償で支給されています。大切に使いましょう。」 息子が年度初めに学校で受け取ってくる教科書には、このような文言が必ず入っている。 これについて、「国家や政府に感謝しろ」と…

坂口安吾研究会のご案内(ゲスト いとうせいこう氏・陣野俊史氏)

坂口安吾研究会 第26回研究集会のご案内です。 来聴自由、入場無料です。

謹賀新年2015

元旦の空(息子撮影@実家付近) 新年明けましておめでとうございます。 昨年までは前厄、本厄、後厄と続きましたが、幸いとてつもない厄災は経験せずに済みました(細かく数え上げればいろいろあったと思いますが、もう忘れたことにします……)。 厄が明ける…

フィクションについての雑感

フィクションとは何か? という、文学研究者にとっては最も根源的な問いでありながら、ともすればきちんと考えることをなおざりにしがちな問題に関する研究会に混ぜてもらって、末席からお話を拝聴してきました。 本当はお話拝聴だけではなくきちんと積極的…

空白のグルーヴ(2014.10.09 ちょっと修正)

いまよりもう少しまじめに音楽をやっていた学生の頃、「タイム感」の良し悪し、ということをよく言われた。音楽をやらない人には耳慣れない言葉だと思うし、ちょっと説明しにくい言葉なのだけれど、あえて言えば、一定のテンポを自然に保ち続ける感覚、とい…

最近の仕事(2014年6月分)

『防空と空襲(コレクション・モダン都市文化 第100巻)』 (2014年6月、ゆまに書房) 田辺平学『空と国 防空見学・欧米紀行』(一九四三年、相模書房)および神宮寺晃『姿なき空襲』(一九四三年、新泉社)の二冊を写真版で収録したシリーズ最終巻の解題、関…

成長(?)の記録 その2

御宿海岸にて(2014年8月) 古い友人に「続編は?」と訊かれて思い出したので、以前の続きを。 今回は、ばんび組編(保育園生活5年目)です。

ザリガニと暮らす

水槽の中でピースサインを繰り返すザリガニ。餌くれー、とねだっているようでもある。かわいい。。 泊まりがけの出張に出ていた日のこと、気がつくと携帯に自宅からの着信とメールがたくさん。 何事かと思って慌てて確認すると、息子がザリガニを持って帰っ…