織田作之助の「受験小説」?
かなり久しぶりにブログへの書き込みをすることにした。
というのも、現在進行中の科研(研究課題22K00337「学習雑誌・受験雑誌における「文学」コンテンツの機能に関する基礎的研究」)関係の調査で、ちょっとした発見をしたものの、目下いくつも別件の仕事を抱えており、きちんとした「資料紹介」をする余裕がないからだ。また、「発見」とは記したものの、まったく些細な事柄であり、このことだけでは仰々しい解説を書くこともできない、ということもある。
とはいえ、このままほったらかしにしておくと、そのうち私自身が忘却してしまいかねない。そこで、さしあたりブログの記事という形で、記録を残しておくこととしたい(いつか、もう少しまともな資料紹介として書き直すことができたら、この記事は消すかもしれない)。
さて、以下に紹介する記事は、調査を行っていた受験雑誌『考へ方』の15巻1号(1932年1月)にある「応募小説発表」欄に掲載されていたものである。
この雑誌では年二回、読者=受験生による小説・戯曲・詩・短歌・俳句の投稿を募っていたが、投稿小説の選者は当初、藤森成吉が担当しており、若き日の武田麟太郎などの小説も掲載されている(武田の作品を含む優秀作品が藤森編『受験小説選集』(1924年12月、考へ方研究社)として刊行されたこともある)。
藤森に続いて小説投稿欄の選者を担当したのは、自身もこの投稿欄で頭角を現し、小説家としての活動を開始した秋山六郎兵衛だが、ここで紹介する織田作之助関係の資料は、秋山が選者を務めていた時期の「小説短評」と題した選評である。
織田の作品はこのとき入選を果たしたわけではないため、作品全文が掲載されることはなかったものの、次点といった扱いで紹介された12編の中に含まれており、秋山による選評の中でタイトルと梗概が紹介された。以下、当該箇所を抜き出して紹介しておく。
修吉の恋 織田作之助君
お夏と云ふ幼ないときからの友達と別れて受験準備のため京都へ出かけ知人の家に寄偶(ママ)した青年がその家の娘京子と云ふ少女のために都会の女学生によくある虚栄としての恋愛になやまされる心理を細かく描いたもの。前半は筆が落ちついてゐて文章にいゝ潤ひがあるが、後半で前者は自ら自分の気持に押され気味で気情が上辷りしてゐる。