days of thousand leaves

文学研究者のひとりごと

Nさんの追憶のために

年賀状の中に混じっていた一枚の葉書。



大学院時代の後輩であるNさんのご尊父からのものでした。内容は、Nさんが昨年に亡くなったという知らせ。しばし呆然。



Nさんは大学院では二つ下の後輩。同じく坂口安吾を研究対象としていたこともあって、同時期に大学院に居合わせた仲間のなかでも、いろいろと話をする機会が多かったように思います。



私が博士課程を修了するときには卒業旅行(?)を企画してくれて、みんなで伊豆に行ったりしたのですが、改めて数えてみればそれももう、10年以上前の話。大学院修了後、彼女は新宿の某書店の人文書売り場にいました。6年前に拙著を刊行したときには、無名の書き手でしかない私の本を、売り場で平積みにして並べてくれたのでした。



「嬉しいというより申し訳ない感じだね」と感想を伝えた私に、「いまは自分がここの棚を任されているので」と自信たっぷりに答えてくれた彼女の制服姿が思い出されます。私の本のことは例外として、その売り場の棚はツボを押さえてコンパクトにまとめられた、なかなかのものでした。



その後、私の生活の拠点が池袋方面に移ったこともあって、新宿の書店に足を運ぶことも少なくなってしまっていたのですが、それでも毎年やりとりしていた年賀状にはいつも、「次の本を楽しみに待ってます」という一言がありました。



その期待に応えたいと思いながら、まったく実現の見込みも立たないままに時間は流れ、そして、思いもよらなかった訃報…。いまはただ、ご冥福を祈ります。そしていつか、Nさんの期待に応えるような二冊目以降の本をまとめたいと思います。