days of thousand leaves

文学研究者のひとりごと

最近の仕事(2015年3月分)

「地図と痕跡―大岡昇平『武蔵野夫人』論」
千葉大学「人文研究」44、2015・3)


創元文庫版以後、今日における流布本文である新潮文庫版まで、『武蔵野夫人』の巻頭にはかならず「『武蔵野夫人』小説地図」と題した図版が掲載されており、この小説の読解は概ねこの地図に導かれるようにして、武蔵野の地理/自然に関する描写を重視する方向で行われてきた。


しかし、地理/自然を強調するこの地図には、本文中に散見される敗戦後=占領下における武蔵野の〈現実〉が欠落しているのではないか?――こうした観点から、この論文ではいわば、地図を持たずに『武蔵野夫人』のテクスト(に表現された武蔵野の空間)を渉猟し、占領下の武蔵野に関する〈現実〉の位相を読みとることを試みた。